秘密の地図を描こう
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ジプリール捕縛の報告は、当然ギルバートの耳にも届いていた。
「さて……どこにつないでおくべきか」
それが問題ではないか。彼はそう呟く。
「レイ達がせっかく捕まえてくれたが……どうせなら、殺してくれた方がよかったかもしれないね」
彼はさらにそう付け加える。
「だが、それではあの子達の意思に反するし……妥協するしかないのかな?」
ブルーコスモスの手の届かない場所。
それでいて、確実にその身柄を拘束しておける場所。
この条件に合うのはいったいどこだろうか。
「まぁ、奪還に来られたら、そのときは一緒に始末してしまえばいいことだね」
事故として処理できる。と小さく唇の端を持ち上げた。
「それよりも、これからのことを考えないとね」
プラントとオーブの未来、だけではない。
二度と戦争が起きないようにすることも、だ。
それに、と彼は続ける。
「レイの体のこともあるしね」
今までは、いつ戦争が始まるかわからなかった。だから、軍人の道を選んだ彼に治療を施すことはできなかった。もちろん、ラウが目覚めていなかった、と言うこともその理由のひとつではあるが。
「そうなると、キラ君にもいてもらわないといけないね」
もっとも、カガリがあっさりと彼を手放してくれるとは思えない。むしろ、あれこれと理由をつけて引き留めてくれるだろう。
最悪、それでオーブとプラントの関係が悪化しかねない。
キラ争奪戦か。それはそれで楽しいような気がするが……と続ける。
「まずは……キラ君の意思が優先だろうけどね」
とりあえず、キラのそばにはラウがいる。だから、大丈夫だろう。
しかし、だ。
「我ながら困ったものだね」
国の行く末を考えるよりも、キラの争奪戦に勝つ方法を考える方が楽しいとは、と呟く。
「いっそ、みんなでどこかに引きこもってしまおうか」
個人所有のプラントに、と付け加える。幸か不幸か、自分は実験用のプラントを所有しているし、と苦笑とともに付け加えた。
「ともかく、厄介事を終わらせてから、だね」
そうでなければ、また、世界を混乱に巻き込むことになる。それがキラを悲しませることは目に見えていた。
できれば、それは避けたい。
「さて……とりあえずはオーブの姫と話をしないとね」
ついでに、こっそりと彼女の真意を探ってみよう。そう心の中で付け加える。
前線の兵士達も休ませなければいけないだろう。
「やらなければいけないことはたくさんあるか」
それが自分の役目だ。
前線で戦っている者達と違って、政治家は戦争後が忙しい。それでも、とすぐに思い直す。
「少しぐらいは彼らと話がしたいね」
公私混同になるかもしれないが、と続けた。
「まずは、ジプリールか」
結局のところ、そこに戻るのか……と苦笑を浮かべる。
「どこかの小型コロニーにでも放り込んでおくべきかね」
監視をつけて、と呟く。
「それなら、救命ポッドでもいいかもしれないね。オーブ製の大型のものなら、当分、大丈夫だろう」
監視もしやすいのではないか。
「それがいいだろうね」
あの男がしたことを考えれば、それでも生ぬるい方ではないか。
「問題は、ザフトの者達の心情だろうが……オーブ軍にも協力してもらえば大丈夫だろうか」
そう言いながらも、心の中では、これでキラと話をする口実ができた、と呟いてしまう。
「ともかく、大切な者達が皆、無事でよかったね」
この言葉を最後に、ギルバートは意識を切り替えることにした。